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土佐くろしお鉄道中村駅リノベーション

The renovation for Nakamura Station, Tosa Kuroshio Railway Co., Ltd., Shimanto City, Kochi Pref., Japan
待合室 waiting room

待合室 waiting room

四万十ヒノキが乗客を包み込む。着席時に、ヒノキが包まれる感覚と乗客の安心感創出を意図した。原寸大のモックアップを作成して、間接照明の組み込み方や施工性を慎重に確認した。

待合室 waiting room

待合室 waiting room

駅前広場を望む窓際には、自主勉強ができる机を設置した。ローカル線の主たる乗客は交通弱者=学生とお年寄りであり、将来は顧客になるであろう高校生たちに、都会では味わえない贅沢な時間を提供することを意図した。

明るく見通せる安全安心の駅 view from outside

明るく見通せる安全安心の駅 view from outside

中村駅は、夕方以降の乗客が極端に減少する。夜遅い時間帯には駅員も少なくなるため、これまでは「待つ」ことに不安がある駅だったが、ヒノキたっぷりのベンチは駅事務室からの見通しも良く、安全安心は大幅に向上した。

コンコース concourse

コンコース concourse

駅前広場〜コンコース〜待合室〜プラットホームが、公園のように行き来が自由になり、空間が一体になるように床もすべてヒノキで仕上げた。

駅舎正面 the front of station

駅舎正面 the front of station

外壁の改修は最小限にとどめたが、サイン標記等もすべて四万十ヒノキで製作したオリジナルのデザインである。

プラットホーム platform

プラットホーム platform

リノベーション施工後の中村駅では、改札口の取り扱いを中止し、改札内外を自由に行き来できるよう、鉄道会社に提案して実現した。改札の外側には十分なスペースがないが、改札内にはかつて郵便や荷物を取り扱ったスペースが十分にあり、ここに四万十ヒノキのベンチを配置して再生した。四万十川の支流・後川の土手と桜並木を眺めながら、心地良い列車待ちができる。

プラットホーム platform

プラットホーム platform

中村駅に着いた乗客が迎えてくれるのは、四万十ヒノキのカタマリに包まれた人々である。

The truly local railway station

The renovation project for the Nakamura Station is located on the city of Shimanto, Kochi Prefecture, 1.027km away from Tokyo. It is quite isolated from any urban cities. These areas are declining a demand for a local railway’s passengers by reason of the society depending on personal cars and suffering from depopulation. Therefore most of passengers are students and old people. This is not only a Japanese local problem, but a global problem for all over the world.

 

The Train schedule is only once an hour at this railway, therefore we had to rethink about “a waiting time” as a first priority.

Most of Japanese railway stations have a ticket gate for fare control even such as an isolated station. We considered it as a big barrier for passenger’s comfort. We removed the gate first, and expand an actual waiting room to the platform. Thus passengers could move freely over the barrier and finds a nice semi-outside waiting room beside the river.

 

We focused on “a passenger’s smile” during the waiting time. We believe their face must be beautiful, lively and sometime elegant at the public, because the station’s leading character is passenger themselves. To make lovely smile, we designed the lighting system with bench and shelves of retail all in one. It controls everything at the waiting room. At the same time we also try to make a rule for information, sign system and advertisement. The rule is thought by giving priority to human eyes.

By these design, the waiting room is kept up itself as a public space in good atmosphere.

 

After the renovation, a lot of young students are coming back to Nakamura station and staying for long time as a self-study room. The wonderful atmosphere is kept by the eager students.  We believe they will be good passengers for next generation and solve the local and global problems one by one.  The new public space is just started.

prized 受賞歴

 

The Watford Group Brunel Award 2014 ワットフォード ブルネル賞優秀賞(オランダ、イギリス等)
FRAME Magazine (オランダ) The Great Indoors Award 2011 SERVE & FACILITATE final 5 nominated

日本産業デザイン振興会 グッドデザイン賞2010 特別賞 中小企業庁長官賞
国土交通省 第9回日本鉄道賞特別表彰 地方鉄道駅舎リノベーション賞
高知県建築設計監理協会 高知県建築文化賞 審査員特別賞

公益社団法人 土木学会 デザイン賞 2012 最優秀賞
NPOキッズデザイン協議会 第5回キッズデザイン賞
日本商環境設計家協会 JCDアワード2010 新人賞
木材活用コンクール 最優秀賞 林野庁長官賞
日本サインデザイン協会 SDA賞2010 入選
社団法人鉄道建築協会 鉄道建築協会賞
公共の色彩賞 10選 入選
照明学会 照明普及賞

 

design boom, FRAME magazineなどイギリス、オランダ、ドイツ、韓国、中国(香港)など海外メディアの他、

新建築、日経アーキテクチュア、商店建築、鉄道ジャーナル、鉄道ファン、朝日新聞、高知新聞など国内メディアも掲載多数

 

 

概要

事業主: 土佐くろしお鉄道株式会社

工事概要:鉄道駅リノベーション

所在地: 高知県四万十市駅前町7-1

    (土佐くろしお鉄道 中村・宿毛線 中村駅)

設計期間:2009年10月〜12月

施工期間:2009年12月〜2010年3月

設計監理+プロデュース:川西康之+栗田祥弘+柳辰太郎 / nextstations

施工者: 佐竹建設

 

→土佐くろしお鉄道中村駅リノベーションの詳しい説明資料(PDF)

 

→design boomによる紹介記事(英語のみ)

四万十だけの価値を持つ駅

四国の西南部、四万十川が太平洋にゆっくり注ぎ込むあたり、かつて土佐の小京都と呼ばれた四万十市にある土佐くろしお鉄道中村駅構内のリノベーションです。四万十市は高知県では行政上2 番目となる拠点都市だが、鉄道がこの駅まで初めて開通したのは、大阪万博が開催された昭和45 年(1970 年) のこと。明治時代以来の悲願であった中村駅開業当時、この街は熱狂的に沸いたそうです。しかし、ご多分に漏れず、この40 年間で人口は減り、若者の流出と高齢化、中心市街地の衰退、郊外への市街地拡大、車社会への依存が進み、鉄道の利用者も大きく落ち込んでいました。

ところが、この駅舎の建物本体は40 年前とほとんど手付かずで変わっていませんでした。駅は旧国鉄が建設し、現在では県や自治体が出資する土佐くろしお鉄道株式会社が管理しています。中村駅は、典型的な地方ローカル線の駅です。利用者の多くは地元の学生とお年寄りですが、新幹線接続のJR 直通特急が発着することからビジネス客も多く、四万十川や足摺岬へ向かう観光客やお遍路さんの利用も多い。小さな駅の雑然としたプラットホームや駅舎内に、様々な目的と時間の過ごし方を持つ人々が混在していました。

 

地方都市での私的空間と公共空間

日本の地方都市では、個室という「私的」空間が蔓延して「公共」空間を無力化しているのではないか、とずっと私たちは考えていました。人々は「家=私的」から「仕事場・商業施設=私的」へ、「自家用車=私的」を使って移動する。一方で「公共」の空間とは、あまねく人々に無料で開放された空間を指す。公共空間では、見知らぬ人々が行き交い、見る/見られる関係が発生する。だから、人々はお洒落をして街を歩き、大都市はますます華やかに見える。地方都市が抱える問題の本質は、私的空間と公共空間のバランスが崩れたことにあるのではないか、と。住宅や商業施設など私的空間は十分に快適で、安全と安心が行き届いています。一方、地方都市でも街路や公園に予算が投入されているはずなのに、安全で安心とは言えない状況だ。多くの公共空間には魅力がなく、競争力を喪失しています。駅は、私的空間に対抗できる最後の公共空間です。駅で公共の精神を取り戻したい。これが私たちの一番の願いでした。

待ち時間を変える

中村駅は特急列車が発着する駅ですが、乗降客数は1日約2千人と少ない。東京の新宿駅の1日あたりの乗降客数約370万人に対し、四国では最も大きな高松駅でも1日約3万人にも満たない。鉄道事業者にとって、駅で一番大切な機能は「乗客の安全」です。大都市の駅では安全かつスムーズに乗客をさばくかが至上命題となりますが、中村駅を発着する列車は1時間あたり1〜2本しかない。安全確保は当然として、乗客が少ないからこそできる価値を提供できるはずです。また、人々が駅で過ごす時間が長い。「待ち時間」の質を変えることが大切でした。お客様をどうもてなすか。安心できる駅を目指して、見る/見られる空間をつくること。私たちは徹底して利用者の視点で計画を進めました。

境界を越えて

予算はわずか約3千万円、築40年のRC造駅舎を改装することが条件でした。ただし「改札口の外」のみを改装工事対象とする、という条件でした。改札内のプラットホームや上屋は、建築基準法が及ばない聖域です。ところが私たちは、最初の会議で「改札口を廃止しましょう」と主張しました。40年前は7両編成だった特急も、現在は多くは3両編成で、プラットホームは余剰気味です。ただし、駅構内の裏側は四万十川の支流に面しており、真夏でも涼しい風がプラットフォームを吹き抜ける気持ちよい空間で、これを活かしたいと思いました。また、従来は改札口外側にあった既存の待合室は狭くて座席数も少なく、実質的な空間を拡大するにはこの方法しかなかったのです。

土佐くろしお鉄道関係者との議論や調整の結果、改札業務のうち入場時の出札は中止、出場時の集札のみ継続、入場券の発売を停止することで、実質的に駅の内外を自由に行き来できるようにした。事業主体である土佐くろしお鉄道は土佐人気質に溢れた企業で、私たちの提案を全面的に受け入れてくれ、ホーム〜コンコース〜駅前広場に横たわる見えない壁は見事に取り払われました。そうして、この領域を超えたエリアの象徴として、床にヒノキのデッキ材およびフローリングを施設することができました。もちろん、床高さレベル調整に伴う傾斜と、駅プラットホームの安全性は関係機関と調整して万全を期しています。

 

未来の利用者を大切にする駅へ

土佐くろしお鉄道から地場産木材を活用して欲しいという要請もあり、今回は四万十ヒノキをふんだんに使用しています。公共建築では、モラルの底辺に合わせて、プラスチックや金属などの強固な素材が選択されることが多いが、私たちは「公共だからこそ」最高の素材を使いました。駅でいちばん多い利用者は、交通弱者とされる高校生とお年寄りです。特に高校生は卒業と同時に自動車免許を取得し、ほとんど鉄道を利用しなくなる。しかし未来の利用者でもある彼らにこそ、駅という公共空間を使いこなして欲しいと考え、新しい待合室にはヒノキの勉強机と椅子を用意しました。駅で自習しながら列車を待つ若者と、それを静かに見守る大人たち。少し緊張感のある心地よさが駅を包み込み、中村駅で待つ人々の過ごし方は着実に変わりつつあります。

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